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床置形エアコンとは?業務用の設置方法や室外機について解説
2025.11.14 空調機器導入ノウハウ

店舗やオフィス、工場などの室内空間において、設置するエアコンの選定は快適性とランニングコストに直結する重要な経営判断です。
しかし、天井型や壁掛け型が一般的とされる中で、床置形エアコンという選択肢が頭に浮かんだものの、「本当に効率がいいのか?」「設置は簡単なのか?」といった疑問や不安を抱えている担当者の方は少なくありません。
特に天井工事が難しい場所や、迅速な温度調整が求められる現場では、床置形ならではのメリットが活かされます。この記事は床置形エアコンの基礎知識から、業務用としての具体的なメリット・デメリット、そして適切な設置方法と室外機に関する注意点までを、専門的な知見からロジカルに解説します。
目次
床置形エアコンとは
床置形エアコンは文字通り室内に床に設置するタイプの業務用エアコンであり、高い冷暖房能力と設置場所の自由度が特徴です。特に壁や天井の工事が不要で、床面に近い場所の温度調整に優れるため、工場や店舗など広い空間や、人の出入りが多い場所に最適です。
床置形エアコンの内部構造と冷暖房効率のメカニズム
このタイプがなぜ効率的かというと、主に空気の性質をうまく利用している点にあります。冷たい空気は重いため下に、暖かい空気は軽いため上に溜まります。
床置形はこの室内機が人の活動する床面に近い場所に設置されるため、冷房時は効率良く足元から空気を冷やし、暖房時は送風口から直接温かい空気を下から送り出すことで、効率的な対流を生み出すことができるのです。
一般的に、天井が高い工場や体育館のような場所では、天井に設置されたエアコンだと暖かい空気が天井付近に溜まりがちになりますが、床置形であれば、冷暖房のムラを体感的に減らしやすいというメカニズムを持っています。
ですから、設置場所の空間特性を理解して導入すれば、床置形は非常に理にかなった選択だと言えます。
床置形エアコンと他の業務用エアコンとの違い
業務用エアコンは、大きく分けて天井埋込形(カセット型)、天井吊下形、壁掛形、床置形の四つのタイプがあります。床置形エアコンが他のタイプと決定的に違うのは、設置工事の容易さとメンテナンス性、そして送風の仕方です。
天井埋込形は内装デザインに溶け込む反面、天井の開口工事が必須で費用と時間がかかりますが、床置形は大掛かりな工事が不要\*\*で、設置場所の自由度が高いのです。
また、壁掛形と比べて冷暖房能力が高く、特に広い空間や間仕切りが多い場所での使用に適しています。
ただし、床置形は室内に本体を置くため、床面積を占有してしまうという特性があります。そのため、デザイン性や空間利用を最優先するのか、それとも施工のスピードやコスト、メンテナンスのしやすさを優先するのかによって、最適な機種の選択は変わってくるでしょう。
業務用の床置形エアコンを選ぶメリットとデメリット
床置形エアコンの最大のメリットは、工事費の安さとメンテナンスの容易さ、そして人のいる床面に近い場所を素早く冷やせる点です。一方、室内に設置スペースが必要になることや、送風方向の調整範囲が天井型に劣る点がデメリットとして挙げられるため、設置場所の特性に合わせて総合的に判断する必要があります。
床置形エアコンがもたらす3つの導入メリット
床置形エアコンには他のタイプにはない明確な優位性があります。一つ目のメリットは設置工事の費用を抑えやすいという点です。天井型の場合、天井裏の構造を補強したり、開口部を設けたりする複雑な工事が必要になりますが、床置形は基本的に床に置くだけで済むため、工事期間が短くそれに伴う人件費も抑えられる傾向があるのです。
二つ目はメンテナンス・掃除が非常に容易であることです。フィルターの清掃や本体内部へのアクセスが脚立を使わず床面から簡単に行えるため、日常的なメンテナンスの手間やコストを大幅に削減できます。
そして三つ目のメリットは、床付近の冷暖房効率が高いことです。特に人の出入りが多い店舗や、作業員が床面で活動する工場のような場所では、床置形が発揮する直接的かつ強力な送風は、体感温度を素早く快適にする上で非常に有効です。
これらのメリットは、特に初期費用やランニングコストを抑えたい事業者にとって、大きな魅力となるでしょう。
導入前に理解すべき2つのデメリット
床置形エアコンの導入を検討する際に、必ず理解しておくべきデメリットも存在します。まず一つ目は、設置スペースの占有です。当然ですが室内機を床に置くため、その分の床面積が使用できなくなり、室内のレイアウトを制限してしまう可能性があります。
特に狭い店舗やオフィスでは、この占有スペースがデッドスペースになりかねません。二つ目のデメリットは、送風方向の調整範囲に制限があることです。天井埋込形が四方や全方向へ均一に送風できるのに対し、床置形は主に正面方向への送風が中心となるため、配置によっては空間全体に冷暖房のムラが生じやすいという課題があります。
例えば、部屋の隅に設置した場合、反対側の隅まで快適な温度が行き渡りにくいという状況が発生することがあります。そのため、設置場所の広さや形状、そして人の配置を考慮した綿密な配置計画が、他のタイプ以上に重要になってくるのです。
床置形と天井埋込形をコスト・性能で比較
床置形エアコンの特性をより明確にするため、業務用エアコンとして最も一般的な天井埋込形と比較し、導入を検討する際の判断材料となる指標で比較します。
| 比較項目 | 床置形エアコン | 天井埋込形エアコン |
|---|---|---|
| 初期設置費用 | 比較的安価 | 比較的高価 |
| 工事期間の目安 | 短い(配管作業が主) | 長い(天井開口・補強が必須) |
| メンテナンス性 | 非常に容易(フィルター清掃など) | やや困難(高所作業・専門知識) |
| 冷暖房の均一性 | ややムラが出やすい(送風方向制限) | 均一性が高い(四方向送風) |
| 設置スペース | 床面積を占有する | 天井内に隠蔽される |
床置形エアコンの適切な設置方法と室外機処理
床置形エアコンの設置工事は比較的単純ですが「室外機の設置場所」と「ドレン(排水)の適切な処理」が工事の成否を分ける重要ポイントです。
特にドレン配管は、勾配や詰まりの対策を怠ると、水漏れによる故障や内装への損害を招くため、専門業者による確実な施工が必須です。
室内機設置で失敗しないための配置計画
床置形エアコンの性能を最大限に引き出すためには、設置場所の計画が非常に重要です。室内機の設置場所を決める際には「人の出入り口から離す」「障害物を避ける」「送風口を壁に向けない」という3つの原則を守る必要があります。
人の出入り口付近は外気が頻繁に出入りするため、エアコンのセンサーが外気温の影響を受けてしまい、無駄な電力消費につながりがちです。また、デスクや棚などの障害物のすぐ近くに設置してしまうと、送風が遮られて部屋の奥まで空気が届かなくなり、冷暖房のムラが発生します。
さらに、送風口を壁に向けてしまうと、効率的な空気の循環を妨げてしまいます。そのため、室内の隅ではなく、部屋の中央寄りで壁に沿った場所を選び、送風の通り道を確保することが、快適な空調環境を実現する最良の策です。
室外機を設置する際の法的・技術的な注意点
床置形エアコンであっても、エアコンの熱交換を行う室外機は必ず必要になります。この室外機の設置場所には、単にスペースがあるというだけでなく、法的・技術的な注意点が多数存在します。法的な側面で言えば、騒音規制があります。
特に住宅地に近い場所や、オフィスビルの共有部分に設置する場合、室外機から発生する運転音が近隣住民や他のテナントの迷惑にならないよう、自治体の条例などを確認した上で、適切な場所を選ぶ必要があります。
技術的な側面では、室外機は熱交換のために大量の空気を吸い込み、吐き出すため、風通しが良く、直射日光が当たりにくい場所を選ぶことが、エアコンの効率を維持するために非常に重要です。また、室外機は振動を伴うため、建物の構造に影響を与えないよう、防振ゴムを敷くなどの対策も必要になってきます。
室外機はエアコンの心臓部ですから、その設置場所の選定には細心の注意を払うべきでしょう。
ドレン(排水)処理の仕組みと水漏れを防ぐ方法
エアコンを使用すると空気中の水分が結露してドレン水(排水)として排出されます。このドレン水を適切に処理するための配管がドレン配管です。床置形エアコンの場合、室内機が床に設置されているため、このドレン配管の処理が不適切だと水漏れを起こし、内装材や備品に甚大な損害を与えるリスクがあります。
水漏れを防ぐ最大のポイントは、ドレンホースに適切な「勾配(傾斜)」を設けることです。勾配が逆になっていたり、途中でたるみができて水が溜まってしまったりすると、そこで詰まりが発生し、水が室内に逆流してしまいます。
もし、ドレン水の排出先が室内機よりも高い場所にある場合はドレンポンプ(強制的に水を押し出す装置)の設置が必要になります。設置業者と打ち合わせをする際には、ドレン配管のルートと勾配、そしてポンプの必要性について、専門的な見地から確認することが水漏れリスクを回避する唯一の方法です。
床置形エアコンの寿命とメンテナンスでコストを削減
床置形エアコンの法定耐用年数は他の業務用エアコンと変わりませんが、寿命を延ばしランニングコストを削減するためには日常的なフィルター清掃の徹底と定期的な専門業者による点検が不可欠です。メンテナンスの容易さという床置形のメリットを最大限に活かすべきです。
定期的なフィルター清掃がランニングコストを下げる理由
エアコンの運転効率は、フィルターの汚れに大きく左右されます。フィルターがホコリやゴミで詰まると、エアコンが空気を吸い込む力が弱くなり、冷暖房するためにより多くの電力を消費しなければならなくなります。これが電気代の無駄、つまりランニングコストの上昇に直結するのです。
床置形エアコンは、他の天井型と比べてフィルターの清掃が圧倒的に簡単というメリットがあります。
このメリットを活かさない手はありません。
担当者や現場の従業員が日常的にフィルター清掃をルーティン化することで、エアコンが常に最高の状態で運転できるようになり、結果として電気代の削減に貢献します。メーカー推奨の頻度(一般的に2週間に一度程度)で、こまめに清掃を行うことが、設備を長持ちさせ、経済的な運転を維持するための最も簡単な方法なのです。
専門業者に依頼すべき定期点検の項目と時期
日常的なフィルター清掃だけでは、エアコンの寿命を延ばし、故障を防ぐには不十分です。エアコンの心臓部である熱交換器の洗浄や、冷媒ガスが規定量入っているかをチェックする冷媒ガスの圧力点検など、専門業者でなければ実施できない定期的な点検が必要になります。
特に、冷媒ガスが漏れていると、エアコンの効きが悪くなるだけでなく、環境にも悪影響を及ぼします。さらに、業務用エアコンはフロン排出抑制法に基づき、一定以上の能力を持つ機種については、所有者による簡易点検や専門業者による定期点検が義務付けられています。
これらの点検を怠ると、法律違反となるだけでなく、故障の予兆を見逃し、突然の停止や高額な修理費用が発生するリスクを招きます。専門業者による年一回程度の定期点検を実施することが、事業の安定的な継続のためのリスクヘッジとなるでしょう。
業務用エアコンのフロン排出抑制法に基づく点検義務
業務用エアコンの所有者には、フロン排出抑制法(正式名称:地球温暖化対策の推進に関する法律等の一部を改正する法律)に基づき、冷媒としてフロン類を使用している機器の簡易点検および定期点検が義務付けられています。
簡易点検はすべての業務用エアコンが対象で、3ヶ月に1回以上の頻度で実施する必要があります。
よくある質問
家庭用床置形エアコンを業務用として使えますか
基本的には推奨できません。業務用の空間(店舗、オフィスなど)は、家庭用よりも求められる冷暖房能力が圧倒的に高く、連続運転時間も長いためです。家庭用を無理に使うと、設定温度に達せず常にフル稼働状態となり、電気代が極端に高くなる上、設計上の耐久性が低いためすぐに故障する原因となります。
業務用の空間には、建築基準や消防法上の要件もあるため、必ず業務用として設計された製品を選び、専門業者に選定を依頼するべきです。
床置形エアコンの室外機はどこに設置すべきですか
風通しが良く、直射日光が当たらない場所で、かつドレン配管の勾配が取れる、振動が少ない場所を選ぶべきです。室外機は周囲の空気を利用して熱交換を行うため、風通しが悪いと効率が低下し、エアコン全体の性能が落ちます。
また、直射日光は本体の温度を上げ、負荷を高めます。設置場所が近隣住民の生活圏に近い場合は騒音対策として防振ゴムを敷設するなど、配慮が求められることを忘れないでください。
床置形エアコンの設置場所は窓際でも大丈夫ですか
窓際は冷暖房効率の観点から避けるべきです。窓は外気の影響を最も受けやすい場所であり、特に夏の強い日差しや冬の冷気が直接室内機に当たると、センサーが誤作動を起こしたり、エアコンが「外気の温度」の影響を受けてしまい、正確な温度調整ができなくなるためです。
設置する際は、窓際から1メートル以上離し、室内の空気循環を妨げない場所に設置することが、最も効率的な運転に繋がります。
まとめ
床置形エアコンは、天井工事の制約やメンテナンスの煩雑さといった課題を抱える事業所にとって、設置の容易性とメンテナンス性、そして床面付近の強力な冷暖房性能という大きなメリットを提供するソリューションです。
導入を成功させる鍵は、「ドレン処理の確実な施工」と、「設置場所のレイアウトを最適化すること」にあります。この記事の内容を参考に、あなたの事業所に最適な床置形エアコンを選定し、快適で経済的な空調環境を実現してください。
