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換気設備に関わる建築基準法の規定を解説
2025.07.11 空調機器活用ノウハウ

Q. 換気設備は義務化されていますか?
A. はい、事務所ビルや倉庫、店舗などの非住宅建築物においても、建築基準法により換気設備の設置が義務付けられています。
Q. 換気設備の基準法は?
A. 換気に関する基準は、建築基準法第28条および建築基準法施行令第20条・第21条などで定められており、非住宅用途の施設にも広く適用されます。
Q. 法第28条で換気についてはどう規定されていますか?
A. 建築基準法第28条では「居室には常時換気可能な設備を設けなければならない」と規定されています。
近年、法人施設における室内空気環境の適正管理が、従業員の健康・生産性・安全性確保の観点から重要視されています。
特にシックビル症候群や感染症リスクの抑制のために、オフィス・事務所・商業施設・倉庫などにおける換気設備の設置は、建築基準法に基づく「法的義務」として位置付けられています。
しかし、
- どの法律に基づき、どのような設備を設ける必要があるのか
- 自然換気と機械換気の使い分けや設計上の自由度はどこまであるのか
- リノベーション時にも換気基準は適用されるのか
など、実務では上記のような疑問が生じることがあります。
この記事では、建築基準法第28条を起点に法人施設で必要となる換気基準、機械換気方式の種類、設置時の注意点、そして基準を満たせない場合の対策について解説していきます。
目次
建築基準法における換気設備の位置づけ
建築基準法は、建築物の安全性や衛生、快適性などを確保するための法令です。
その中で換気に関する規定は、第28条に明記されています。
居室には換気のための窓その他の開口部を設け、その換気に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、二十分の一以上としなければならない。ただし、政令で定める技術的基準に従つて換気設備を設けた場合においては、この限りでない。
この「床面積の1/20以上」というのがいわゆる「換気量の基準」であり、設計者や施工者にとって非常に重要な数値です。
さらに2003年の改正以降、一定の建築物には機械換気の導入が義務づけられました(これについては次の項目で詳しく解説します)。
また、建築基準法は法第28条だけでなく、施行令・告示などによって細かい技術的な規定も設けています。
たとえば、窓による自然換気が認められる場合や、常時使用しない空間の扱いなど、例外や緩和措置も存在します。
このように、建築基準法では単なる快適性の確保ではなく、「健康維持」のために換気性能を義務化している点が大きな特徴です。
法人施設における24時間換気の義務
2003年の法改正により住宅に限らず、小規模事務所や事業所、一定規模以下の施設でも24時間換気設備の設置が事実上の標準とされました。
これは、建材などから放散されるホルムアルデヒド等への対策として設けられたもので、高気密なビル環境での空気の滞留や汚染を防ぐために極めて重要です。
特に執務空間や会議室、休憩室、受付フロアといった人の滞在時間が長い空間では、1時間あたり0.5回以上の換気回数を確保することが前提とされます。
2003年改正以降の24時間換気の背景
24時間換気が法制化された最大の背景は、シックハウス症候群の急増です。
1990年代後半、建材や内装仕上げに使用される接着剤・塗料などから発生するホルムアルデヒドなどの化学物質によって、目のかゆみや頭痛、呼吸器系の不調を訴える事例が増加しました。
これに対応するかたちで、建築基準法は2003年に改正され、新築住宅には機械換気設備の設置が義務化されました。
従来のように窓を開けて換気する方法では、冬季や深夜など継続的な換気が困難なため、機械的なシステムの導入が求められています。

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シックハウス対策と機械換気設備の関係
シックハウス対策として義務付けられたのが「機械換気設備(24時間換気)」です。
これにより、住空間全体の空気が1時間あたり0.5回以上入れ替わるよう設計されなければなりません。
つまり、室内の体積に対して0.5回/時以上の換気回数が確保されていれば、法律上の義務を果たしているとみなされます。これは主に次のような機器で対応されます。
- 壁や天井に設置する常時運転の換気扇
- 換気量を自動調整するセンサー付きシステム
- 全熱交換器を組み込んだ省エネタイプの機械換気装置
設置義務のある建物と例外
24時間換気の設置が義務付けられるのは、以下のような建物です。
- 新築の戸建住宅
- 共同住宅(マンションなど)
- 小規模な事務所・店舗等
一方で、既存建物のリフォームや、一部の特殊用途の建物には例外もあります。
たとえば、大規模商業施設などでは、中央空調システムで換気が確保されている場合や、用途上短時間しか使用されない施設では緩和措置が適用されることがあります。
ただし、たとえ法的義務がない場合でも、室内環境の健全性を確保するために24時間換気設備の導入は推奨されます。
特に高気密・高断熱の建物では、空気の滞留が起きやすくなるためです。
換気設備の主な種類とその特徴
建築基準法に適合する換気設備には以下の三種類があります。

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第1種換気(給気・排気ともに機械)
機械によって外気を取り入れ、かつ屋内の空気を排出する方式です。
外気の温湿度調整ができる全熱交換器を導入するケースもあり、快適性と省エネ性に優れています。
- メリット:温度管理・湿度管理がしやすく、室内の空気品質が安定する
- デメリット:設備コスト・ランニングコストが比較的高い
第2種換気(給気のみ機械、排気は自然)
医療施設などで使用される方式で、常に室内を正圧に保ち外部からの汚染空気の侵入を防ぎます。
- メリット:室内の空気を清浄に保ちやすい
- デメリット:オフィスまどの事務所では過剰な仕様のため、非推奨
第3種換気(排気のみ機械、給気は自然)
事務所やオフィスの休憩室などの小規模な屋内で最も普及している方式です。
排気をファンで強制的に行うことで、給気口から自然に外気を取り入れます。
- メリット:コストが比較的安く、設置も容易
- デメリット:給気の管理が難しく、外気の温度・湿度がそのまま室内に入る
自然換気の法的位置づけ
自然換気は、建物の構造や立地条件に大きく左右されるため、法人施設では補助的な手段として扱われるのが一般的です。
安定した換気量を担保するため、原則として機械換気が必要とされます。
そのため、24時間換気の義務がある建物では「機械換気」が前提となっており、自然換気だけで基準を満たすのは難しいとされています。
換気基準を満たせない場合の対応策
建物の構造上や用途上の制約により、建築基準法で定められた換気基準をそのまま満たすことが難しいケースも存在します。
特に、リノベーションや特殊用途施設では「1/20基準」や換気量の確保が困難となる場面があります。
ここでは、そうした場合に取るべき代替措置や設計上の工夫について解説します。
「換気1/20取れない」場合の代替措置
「1/20基準」とは、室内の開口部(窓など)の面積が、床面積の1/20以上であることを求める規定です。
自然換気に頼る構造では、この基準を満たすことが難しいケースが多く見られます。
その場合の対応策としては、
機械換気設備の導入による代替
室内の換気量(0.5回/時以上)を満たす機械設備を設置することで、法的要件をクリアできます。
換気計算書の提出による証明
設備で換気量を補っていることを「換気計算書」として明示し、確認申請で説明します。
換気経路の確保(連窓や空調連動)
室内ドアのアンダーカットやスリット設計を用いて空気の流れを設計することも有効です。
特別な構造・用途に応じた緩和措置
一部の建物については、建築基準法施行令の中で特例的な措置や緩和規定が存在します。
たとえば以下のような事例があります。
ビルイン型テナントの場合
外部に窓を設けられない区画では、「機械換気設備によって必要換気量を満たす」ことで代替可能です。
用途地域による構造制限のある建物
工場や作業場の一部では防音や密閉性が求められる場合があり、その場合も法解釈に基づき換気方式が調整されます。
このようなケースでは、設計者が建築主事と事前協議を行い、適切な解釈と対応方針を共有しておくことが重要です。
計画変更や設計対応時の注意点
設計段階では基準を満たしていたとしても、以下のようなケースでは法的再確認や再申請が必要になる可能性があります。
- 換気設備の仕様変更(機器メーカー変更など)
- 間仕切り変更による空間構成の変更
- 給排気位置の移動による空気流動の変化
これらの変更は意図せず換気能力を下げてしまうリスクがあるため、設計変更時には再度「換気量計算」や「設備容量の確認」を行うことを推奨します。
また、自治体によっては「換気計画の変更届」の提出を求める場合もあります。
建築基準法に基づく換気計算
換気設備を設計するうえで、建築基準法に基づいた正確な「換気量の計算」は不可欠です。
特に機械換気設備を導入する場合は、必要換気量が法令で定められているため、適切な計算と記録が求められます。
ここでは、基本的な換気計算の考え方とその手順について解説します。
必要換気量の求め方と式の構成要素
建築基準法における換気量の基本的な考え方は「1時間あたりに必要な空気の入れ替え量(換気回数)」に基づきます。
代表的な計算式は以下のとおりです。
必要換気量(㎥/h)= 室内容積(㎥) × 必要換気回数(回/h)
たとえば、床面積30㎡、天井高2.5mの部屋で、必要換気回数が0.5回/hの場合、
30㎡ × 2.5m = 75㎥(室内容積)
75㎥ × 0.5回/h = 37.5㎥/h(必要換気量)
この計算に基づき、37.5㎥/h以上の換気性能を持つ機器を選定する必要があります。
空間ごとの換気量の違いと計算例
建築物の用途や部屋の種類によって、必要な換気量や換気回数は異なります。
以下に代表的な用途ごとの目安を示します。
用途 | 必要換気回数(目安) | 備考 |
---|---|---|
トイレ | 5〜10回/h | 臭気対策が主目的 |
厨房 | 10〜20回/h | 油煙対策 |
オフィス会議室 | 3〜6回/h | 人数と利用頻度により調整 |
美容室など施術空間 | 5〜10回/h | 化学物質対策 |
たとえば、オフィスの会議室(20㎡、天井高2.6m)で、必要換気回数を6回/hと設定した場合、
20㎡ × 2.6m = 52㎥(室内容積)
52㎥ × 6回/h = 312㎥/h(必要換気量)
このように空間ごとに計算し、それぞれに合った換気設備を設置する必要があります。
なお、同じ建物内でも用途や利用時間が異なる場合は、部屋ごとに個別の換気計算が必要となります。
よくある質問
建築基準法における換気設備に関する疑問点をQ&A形式でまとめました。
Q1. オフィスなどの事務所以外にも換気設備の義務はある?
A:はい、法人施設においても、室内以外の区画への換気設備の設置は義務となる場合があります。
建築基準法では、オフィス・工場・店舗などの用途に関係なく、「居室」に該当しないトイレ・給湯室・厨房・更衣室などでも、臭気・湿気・熱気などの発生がある空間には適切な換気措置が必要とされています。
特に機械換気が必須とされるケースでは、施設の用途・構造・床面積・使用人数に応じた換気計算や設備選定が求められるため、設計・申請段階での法令確認と実務対応が重要です。
Q2. 建築基準法の換気規定はリフォームにも適用される?
A:事業用建物のリノベーションや用途変更を伴う改修には、換気基準の適用が必要となる場合があります。
たとえば、倉庫をオフィスに転用する、事務所を来客対応型の店舗にする、といった用途変更や床面積の増加を伴う改修では、新築同様に現行の換気基準への適合が求められます。
一方で、内装の模様替えや間仕切りの変更といった軽微な改修のみの場合は適用対象外となることもあります。
ただし、既存不適格の建物であっても、設備改修時に換気機能を見直すことは、従業員の健康管理や労働環境改善の観点からも推奨されます。
Q3. 1/20の基準は床面積のどの部分に適用される?
A:室内の有効床面積に対して適用されます。
1/20基準(自然換気の開口部面積の比率)は、基本的に室内の「有効床面積」に対して算出されます。
壁に接しない部分や収納、出入り口などは除外されるケースもあり、実際の算定時には設計者が精査する必要があります。
Q4. 自然換気だけでも法的には問題ないのか?
A:用途と建物の条件によります。一般住宅などでは自然換気(窓など)でも基準を満たせば問題ありませんが、ビルや非住宅施設では24時間換気が義務付けられていることが多く、機換気の設置が基本となります。
自然換気を前提とする場合は、開口部の大きさや位置など、設計上の工夫が不可欠です。
まとめ
換気設備に関する建築基準法の規定は建物の安全性と居住者の健康を守るために定められており、特に2003年以降のシックハウス対策強化により、住宅や非住宅を問わず適切な換気が法的に求められるようになりました。
建築基準法第28条をはじめとする関連規定では、室内ごとの開口部や換気設備の設置条件、換気量の基準などが細かく定められており、設計段階から法令を正確に理解し対応することが重要です。
また、換気設備には機械式と自然換気の両方があり、建物の用途や構造、設置環境に応じた適切な選定が求められます。
特に近年では省エネや感染症対策の観点からも換気性能への注目が高まっており、単に法令を満たすだけでなく、より快適で健康的な空間づくりのために積極的な換気設計が望まれます。
換気設備は表面上では見えにくいゆえに気づかれにくいですが、建築における根幹のひとつです。法規制と実務知識を正しく押さえ、計画・設計・運用に役立てましょう。
オーソリティー空調では、オフィス・店舗や商業施設・ビルなどの換気設計から施工までを請け負っています。換気設備の導入や見直しをお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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参考文献