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建築物衛生法(ビル管法)とは?建築物管理法との違いや管理基準について解説

2025.12.19 空調機器活用ノウハウ

建築物衛生法(ビル管法)とは?建築物管理法との違いや管理基準について解説

オフィスビルや商業施設、病院、学校などの大規模な建物を所有・管理されている方であれば建築物衛生法、通称「ビル管法」という言葉を耳にしたことはあるかと思います。

この法律は建物の利用者にとって「安心して呼吸し、安全に水を使える」という、健康の根幹に関わる環境を守るための非常に重要な法律です。しかし、「なんとなく清掃や点検はしているけれど、自分の建物が本当に法律の対象なのか?」「『ビル管理法』という通称と何が違うのか?」といった疑問が残る方も多いかもしれません。

法律の対象となる特定建築物であるにもかかわらず、その義務を曖昧なままにしておくと万が一、建物の空気環境や水質に問題が発生した際に、行政処分や罰則を受ける大きなリスクを背負うことになります。

この記事では建築物衛生法について全く知識がない方を想定し、その正式名称、目的、適用対象を解説していきます。

建築物衛生法の目的

建築物衛生法の目的

建築物衛生法という名前は耳にしますが、この法律がなぜ制定され何を目的としているのかを知ることが、適切な管理を行うための土台となります。法律の目的は単なる清掃ではなく、要約すると建物内で暮らす人々の健康を守ることにある、ということです。

正式名称と制定目的

建築物衛生法の正式名称は、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」といいます。

これは高度経済成長期を経て建物が大規模化・高層化し、多くの人が閉鎖された空間で長時間過ごすようになった1970年に制定されました。それ以前は衛生管理は建物の所有者の裁量に委ねられていましたが、シックビル症候群やレジオネラ菌などの健康被害が社会問題となるにつれ、国が統一的な衛生基準を設ける必要性が生じたのです。

この法律の最大の目的は特定建築物を利用する人々の健康を確保し、公衆衛生の向上に寄与することです。つまり、建物の外観や美しさではなく、建物内部の空気、水、ネズミや害虫の有無といった目に見えにくい衛生状態を、科学的な基準に基づいて厳格に管理することが求められます。

法律が適用される特定建築物の定義

この法律の管理義務が適用されるのは、すべての建物ではありません。法律が定めた一定の要件を満たす建物、すなわち特定建築物だけが対象となります。自分が管理する建物が特定建築物であるかどうかを知ることは、法令遵守のスタートラインです。

特定建築物となる主な要件は、用途と規模(延べ床面積)の2つです。たとえば、事務所、店舗、学校、病院、ホテル、美術館、興行場などが法律に定められた用途であり、これらの用途に供される部分の延べ床面積が3,000平方メートル以上である場合に特定建築物に該当します。

ただし、学校や美術館、集会場など一部の用途では規模が8,000平方メートル以上に基準が引き上げられる場合もあります。この面積基準は、多数の人が利用することで健康リスクが高まるという判断に基づいています。

もし、建物の一部がオフィスで残りが店舗というように用途が混在している場合でも、それぞれの特定用途に供される部分の面積を合計して3,000平方メートルを超えれば特定建築物として扱われます。実際には判断が複雑になるケースも多いため、ビル管理の専門家や管轄の保健所に確認することが最も確実です。

特定建築物の用途別面積基準(商業施設・学校・病院など)

用途の種類 延べ床面積の基準
事務所・店舗・百貨店・集会場(※) 3,000 ㎡ 以上
旅館、ホテル 3,000 ㎡ 以上
病院、診療所、学校(※)、美術館、図書館、博物館、興行場など 8,000 ㎡ 以上

(※)学校や集会場など、一部の用途は面積基準が緩和される場合があります。詳細は施行令に基づき確認が必要です。

混同しやすい「建築物管理法」との違いを明確にする

建築物衛生法は通称「ビル管法」と呼ばれることが多いのですが、実はこの通称が混乱の元になることがあります。法律の正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」であり、「建築物管理法」という名称の法律は存在しません。

この通称「ビル管法」が指すのは、あくまで建築物衛生法です。しかし、広くビル管理業務を指す場合、ビル管理という言葉が使われるため、ビル管理法と誤って認識されるケースが多々あるのです。

建築物衛生法はあくまで建物内の衛生的な環境に特化した法律であり、建物の構造的な安全や防災に関する規制は建築基準法や消防法が担っています。したがって、ビル管理業務全体はこれらの複数の法律を遵守することで成り立っており、建築物衛生法はその衛生面をカバーする、欠かせない中核の法律であると理解しておきましょう。

管理者が負う三大義務と求められる具体的な基準

管理者が負う三大義務と求められる具体的な基準

特定建築物の所有者または管理者には、法律によって明確な義務が課せられています。これを実行しなければ法律を遵守しているとは言えません。特に専門知識を要する環境衛生管理基準の具体的な内容を把握しておくことが重要です。

特定建築物管理者が必ず実施すべき「三大義務」

特定建築物の管理者が法律に基づいて必ず実施しなければならない義務は、主に以下の3つに分けられます。

この三大義務こそが、特定建築物管理の基本中の基本となります。

法律に基づいて実施が必要な事項
  1. 環境衛生管理基準の遵守: 建物内の空気、水、清掃、ネズミ等の防除に関して、法律で定められた基準値を常に満たすように管理する義務です。
  2. 環境衛生管理技術者の選任: 専門的な知識と資格を持つ「建築物環境衛生管理技術者」を一人以上選任し、衛生管理業務の指揮監督にあたらせる義務です。
  3. 帳簿書類の備え付け: 衛生管理の実施状況(測定記録、点検記録、清掃記録など)を詳細に記録し、一定期間(概ね5年間)保管する義務です。

これらの義務はどれか一つを欠いても法令違反となります。たとえば、日常の清掃を徹底していても空気のCO2濃度測定記録がなければ、「帳簿書類の備え付け」の義務違反となる可能性があります。

管理者はこれら全ての義務が履行される体制を整えなければなりません。

建物内の利用者の健康を守る環境衛生管理基準の概要

三大義務の中でも、最も実務的かつ専門的なのが環境衛生管理基準の遵守です。この基準は目に見えない衛生状態を科学的にコントロールするための具体的な数値や方法を定めています。基準は多岐にわたりますが、ここでは特に重要度の高い項目を解説します。

空気環境の基準 CO2濃度・一酸化炭素・温度・湿度など

空気環境の基準はシックビル症候群や感染症予防の観点から非常に厳しく定められています。

これは、建物の換気設備の性能と密接に関わる基準です。

定期測定が必要な項目
  • 二酸化炭素(CO2)濃度: 100万分の1000(1,000 ppm)以下に保つ必要があります。この基準は、換気が適切に行われているかを測る最も重要な指標です。
  • 一酸化炭素(CO)濃度: 10 ppm以下に保つ必要があります。
  • 温度: 17℃以上28℃以下(居室)に保つ必要があります。
  • 湿度: 40%以上70%以下に保つ必要があります。

管理者はこれらの項目を2ヶ月に1回以上定期的に測定し、基準値から逸脱しないように換気設備の調整を行う必要があります。もしCO2濃度が基準値を超えた場合、利用者の集中力低下や体調不良につながるリスクがあるため、迅速な対応が求められます。

参考記事:換気をしないとどうなる?健康被害や換気の正しい方法を解説

給水・排水設備、雑用水の管理基準(水質検査の義務)

建物内の水回りに関する基準も利用者の健康を守る上で極めて重要です。特に飲料水やシャワーなどに使われる水については、細菌による汚染や有害物質の混入がないかを常に監視しなければなりません。

この基準では給水設備の清掃や点検の周期、そして水質検査の義務が定められています。たとえば貯水槽は1年以内ごとに1回、定期的に清掃することが義務付けられています。また、水質についても大腸菌やレジオネラ属菌の有無など、法律で定められた項目について定期的な検査を実施し、その記録を保管しなければなりません。

雑用水(トイレの洗浄水など、飲用以外の水)を使用している場合でも、配管の管理や水質の基準が別途定められています。これらの検査を怠ると、レジオネラ症などの集団感染につながるリスクがあるため専門の検査機関との連携が不可欠です。

環境衛生管理技術者の選任義務とその役割

前述したように特定建築物の管理者は、必ず建築物環境衛生管理技術者という国家資格を持つ専門家を衛生管理の責任者として選任しなければなりません。

この技術者は衛生管理基準を遵守するための実務的な指揮監督を行う役割を担います。具体的には測定結果の評価、清掃や点検の計画立案、ビル管理業者への指示、そして管理者への助言などが主な業務です。

この資格を持つ専門家が法律の求める専門的な視点と知識を持って業務を遂行することで、初めて法律の求める衛生水準を維持することが可能になります。この技術者は建物の規模にかかわらず特定建築物ごとに必ず一人以上選任する必要があり、管理者自身が資格を持っていない場合は外部から招聘するか、有資格者を雇用しなければなりません。

衛生管理を怠った場合のリスク

衛生管理を怠った場合のリスク

建築物衛生法の義務は、単なる「努力目標」ではありません。法令を遵守しないことによって生じるリスクは大きく、企業の信用や経営にも影響を与えます。

法令違反時に発生する行政処分と罰則

特定建築物の管理者が法律で定められた義務を怠った場合、まずは行政による指導が入ります。具体的には、管轄の保健所や都道府県知事から、基準値を超過している項目についての改善命令が出されます。

この改善命令に従わない場合や健康被害につながる重大な違反があった場合には、より重い行政処分の対象となります。たとえば、環境衛生管理基準を満たさないまま営業を継続した場合、使用停止命令や罰則(罰金など)が科される可能性があります。

特にレジオネラ菌の集団発生など利用者の健康を脅かす事態に発展した場合、その社会的信用失墜や損害賠償リスクは罰金以上の重いものとなります。法律の要求水準を満たすことは建物の安全性を保証すること、すなわち企業の社会的責任(CSR)を果たすことに他なりません。

衛生管理業務を委託する際の「登録事業者」の選び方

衛生管理業務は専門性が高いため、ほとんどの特定建築物では清掃や測定業務を外部のビル管理業者に委託します。しかし、どの業者に委託しても良いわけではありません。

建築物衛生法では衛生管理を行う事業者が、業務の種類ごとに「建築物登録事業者」として都道府県知事に登録することを推奨しています。この登録事業者は必要な設備、技術者、作業方法などが法律の基準を満たしていることが公的に認められた業者です。

委託先の業者を選定する際は単に費用が安いという理由だけでなく、「空気環境測定業」「貯水槽清掃業」など、依頼したい業務に対応する登録を受けているかを必ず確認すべきです。登録事業者であれば、法律の求める基準と手順を理解した上で業務を遂行してくれるため、管理者の法令遵守を強力にサポートしてくれます。

災害発生時や老朽化が進んだ建物での衛生管理の注意点

近年、地震や台風などの自然災害が増加傾向にあります。災害発生時は建物管理が一時的にストップするだけでなく、衛生状態が急激に悪化するリスクがあります。

たとえば、貯水槽が破損したり給水管が断水したりした場合、水の汚染リスクが非常に高まります。また、空調設備が停止したり、窓が割れたりすることで、室内の空気環境基準の維持が困難になります。

管理者は通常の管理基準だけでなく、災害時の衛生管理マニュアルを策定し、断水・停電時でも水質の安全確保や簡易な換気対策ができるよう、緊急時の対応体制を構築しておく必要があります。また老朽化が進んだ建物では、配管の錆やカビの発生リスクも高まるため、法律で定められた点検周期よりも頻度を増やした管理を自主的に行うことが、利用者の健康を守る上で大切になります。

よくある質問

Q1. 建築物衛生法は内装やデザインの規制も含みますか

建築物衛生法は、内装の「デザイン」自体を規制するものではありません。

この法律が規制するのは、あくまで衛生的環境の確保に関する基準です。ただし内装材については法律の基準に関わります。たとえば、シックハウス対策の観点から、ホルムアルデヒドなどの化学物質を放散しにくい建材を使用することやカビが発生しにくい構造であることなどが間接的に求められます。

また、内装の清掃のしやすさも、衛生管理基準の遵守に影響します。

Q2. 共同住宅(マンション)は建築物衛生法の対象になりますか

原則として対象外ですが、一部例外があります。

法律の目的は「多数の者が利用する建物」の衛生確保であり、住居専用のマンション(共同住宅)は、この法律の適用対象となる特定建築物には含まれていません。ただし、マンションの1階部分に店舗や事務所が入り、その用途に供される部分の延べ床面積が特定建築物の基準(3,000㎡など)を超えた場合は、その店舗・事務所部分が法律の対象となる場合があります。

Q3. ビル管理会社に委託していれば、管理者として他にすべきことはありませんか

管理者としての最終的な責任はなくなりません。衛生管理の実務(清掃、測定など)は業者に委託できますが、「環境衛生管理技術者の選任」や「帳簿書類の備え付け・管理」「委託先の監督」といった三大義務の履行責任は、法律上、管理者自身(所有者または管理権原者)にあります。

委託先が提出した測定記録を管理者がチェックし、保管すること、そして基準値を逸脱していないかを監督する責任が常に残ります。

Q4. 環境衛生管理技術者の資格は誰でも取得できますか

誰でも受験はできますが、資格取得には実務経験が必要です。

環境衛生管理技術者の試験は、誰でも受験が可能ですが、試験合格後、特定建築物の維持管理に関する実務経験を2年以上積むことが、最終的な免状交付の条件となっています。

このため、この資格は、単なる知識だけでなく、現場での経験と専門性を証明する非常に権威ある資格とされています。

まとめ

建築物衛生法(ビル管法)は特定建築物の利用者の健康と公衆衛生を守るために、建物管理者に対し、極めて重要な法的責任と管理基準を課しています。

法律の対象は、用途と規模で決まる特定建築物であり、管理者には環境衛生管理基準の遵守技術者の選任帳簿書類の備え付けという三大義務があります。特に空気環境や水質の管理基準は厳格であり、これを怠ることは行政指導や罰則のリスクを招きます。

この法律の要求水準を満たすことは単に法令を遵守するだけでなく、テナントや利用者がその建物を信頼し安全に利用できることを保証する、企業としての社会的責任そのものです。建物管理のプロとして、法律の全容を理解し、持続的かつ適切な衛生管理体制を確立することが求められます。

参考文献


空調設備の設置から、内装設計・工事を含む空間デザイン、そして最新設備による快適な空気環境の施工プランまで。

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